柳美里さんの小説おすすめ10選│生い立ちや山手線シリーズの順番も解説

在日韓国人として芥川賞を受賞し一躍有名人となった作家・柳美里さん。私生活では国籍による差別を受けたり、不倫の末にシングルマザーになるなど壮絶な人生を歩んできました。柳美里さんの作品には、社会の弱者にスポットを当て居場所について書かれたものが多くあります。

柳美里さんは過去に訴訟問題や虐待疑惑があり、あまりいい印象がないかもしれません。一方で、芥川賞作家の柳美里さんがどんな作品を書いているか気になっている方もいると思います。

今回は、そんな柳美里さんの小説について解説していきます。柳美里さんの生い立ちや代表作「山手線シリーズ」・おすすめ作品もご紹介していますので、参考にしてください。

柳美里さんは、横浜で生まれ育ちました。美里という名は、在日として名前で苦労しないようにと付けれました。しかし、通っていた高校で国籍差別によるいじめに遭い1年で退学してしまいます。

翌年ミュージカル劇団に入団し、劇団女優として活動を始めます。演出助手を経て自身の劇団「青春五月党」を旗揚げし 、劇作家デビューを飾ったのが柳美里さんの作家人生のはじまりです。

作家として波に乗っていた柳美里さんは、妻子ある男性との不倫の末に妊娠します。しかし、認知や養育費問題をめぐって相手男性と決裂してしまいます。

交渉が決裂している間にもお腹の子供は育っていきます。そこで柳美里さんは、シングルマザーとして一人で子供を育てる大きな決断をしたのです。そして、この経験が「命」の執筆へとつながっていきます。

柳美里さんには、かつて同棲していた劇団女優の頃からの恩師がいました。シングルマザーとしての出産する悩みや不安を恩師に相談したところ、恩師が共同生活をしながらサポートをすると申し出てくれました。しかし、恩師はガンを患っていたのです。

徐々に迫る恩師の死期と我が子の誕生が同時に訪れ、柳美里さんの死生観は大きく変わったといいます。

私生活作家のイメージが強い柳美里さんですが、東日本大震災を機に大きな変化が訪れます。柳美里さんは、被災地の災害FM局の依頼でラジオ番組に出演し、被災者の話を多数聴いてきました。

そうするうちに他者の言葉が自分の中にどんどん刻み込まれていき、自分とはかけ離れた登場人物や話の内容も書けるようになっていきました。

ラジオ番組出演のために南相馬市に通い続けていた柳美里さんは、2015年南相馬市に移住しました。

南相馬市は電車の本数が少なく、しかも電車に乗り遅れた高校生が次の電車を待つ場所がありませんでした。それに気付いた柳美里さんは、高校生たちの居場所を作るため書店「フルハウス」を開店しました。地域の復興に寄与する生活を送りながら、今も執筆活動を続けています。

柳美里さんの小説は、一貫して弱者について書かれています。社会に潜む闇や問題を掘り起こし、その中にいる弱者の存在を描いて読者が何を感じどう考えるかを提起しています。

生は全員に平等でありながら、生まれたときに与えられるものは平等ではありません。そして、与えられた境遇や環境がその人の人生に大きく影響していきます。そんな世の不条理へのやるせなさ、絶望しながらも生きる弱者の魂の叫びを描いた作品が多いのが特徴です。

人には居場所が大切ですが、見落とされがちな社会における弱者の居場所について考えさせられます。

家族シネマは第116回芥川賞受賞作品で、20年も別居中の家族が失われた家庭を求めて家族をテーマにした映画に出演するストーリーです。映画が題材になっているので、映像化に向いているのかもしれません。

家族は映画の中で幸せな家庭を演じながら、現実では事情や問題を抱えています。虚構と現実の対比、救いようのない家族のストーリーの中から物事の本質や問題について考えさせられる内容になっています。

編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞受賞作で、柳美里さんの私小説的な作品です。シングルマザーとして出産しこの世に誕生した息子の命、家族よりも身近な存在である最愛の恩師の死、生と死に同時に対峙しながら懸命に生きる命の物語です。

不倫相手との決別や最愛の恩師の死など、さまざまな困難や悲劇が襲いかかってきても藻掻いて足掻いて生きていくストーリーは、見る者に力強いメッセージを与えてくれます。

新宿区に住む主婦が主人公の物語で、人が多い東京に居ながら孤独を感じ次第に追い詰められていく様子がリアルに描かれています。社会から疎外され苦しむ人たちがいる現実、そこから何を感じどう考えるかを問う作品です。

真面目で不器用な主人公は自分の信念を貫くあまり孤立していきますが、物語を読み進むにつれ主人公がなぜそういう人間になっていったのかがわかり理解が深まります。自ら助けを求められない人たちがいて、その人たちに自分ができるのは何でしょう。

主人公の高校生が父親の不倫をきっかけに家族離散の危機に面したり、友人から疎外されて自殺を決意していくストーリーです。大人が死にたくなるほどの問題？と思う事柄も狭い世界で生きる10代にとっては深刻な問題なのだと、読んでいて自分の遠い記憶が蘇ります。

壊れかけの家族や上辺だけの友達、原発事故の放射能汚染、生に対して失望するにつれ高まる死への意識が、主人公をネットの自殺サイトへと導きます。ですが、唯一心の拠り所だった優しかった亡き祖母との思い出が主人公を救い、10代の危うさや生への希望が感じられる作品です。

アメリカで最も権威のある文学賞の一つ、全米図書賞の翻訳部門受賞を受賞しています。同じ日に生まれた2人が生まれた境遇によってこうも違う人生が待ち受けているのかと、考えてみれば当然、でもどこか不条理でやりきれない気持ちになる作品です。

片や天皇、片やホームレス。人から敬われ歓迎される存在と人から疎まれ排除される存在の対比を描き、故郷も家族も居場所もない弱者が潜む日本社会の闇を浮き彫りにしています。

連作長編小説の山手線シリーズは、全部で5作品あります。全編を通し、主人公はそれぞれ問題を抱え葛藤し、死を選んで山手線の駅に向かうストーリー構成です。

どの作品にも「危ないですから黄色い線の後ろにおさがり下さい」の駅のアナウンスが流れる点で統一されています。

• 山手線内回り　　　（2003年）
• JR高田馬場駅戸山口（2006年）
• JR五反田駅東口　　（2007年）
• JR品川駅高輪口　　（2012年）
• JR上野駅公園口　　（2018年）

実在する柳美里さんの知人女性がモデルのデビュー作「石に泳ぐ魚」は、とある問題から訴訟へと発展し、出版差し止めになってしまいました。

この女性は顔に腫瘍があり、柳美里さんは女性に承諾を得ず小説を出版。女性側が小説の存在を知り、損害賠償・出版差止めを求めた裁判で柳美里さんは敗訴しました。表現の自由をめぐって、社会的反響が大きかった作品です。

主人公の少年と祖父はある約束をしますが、約束を果たす前に祖父は亡くなってしまいます。二人の間に物理的な距離があっても相手を思いあい互いに約束を果たそうとするファンタジー童話で、大人にもぜひ読んでもらいたい名作です。

この作品は、「二人で生まれてくる子に絵本を残そう」という亡き恩師との約束を果たすため書かれました。相手が亡くなっても、その人から愛された記憶は心の中に刻まれずっと見守り続けてくれる。そんな、心温まる物語です。

命の重みは平等なはずなのに、世の中には突然消えても誰にも気づかれない弱者がいます。柳美里さんの小説は、命や居場所について改めて考えるきっかけを与えてくれます。本記事が、気になる柳美里さんの作品を見つけるヒントになれば幸いです。