森村誠一のおすすめ作品20選！代表作『人間の証明』から終着駅シリーズまで

作家・森村誠一は、1969年に「高層の死角」で「江戸川乱歩賞」を受賞してから、本格的な小説家としての道を歩み始めました。そして、推理小説のみならず、歴史・時代物やドキュメンタリー、多くの短編・中編やエッセイなど幅広い分野の作品を執筆されました。

また事件解決に活躍する刑事のシリーズ物など、多くの作品が映画やテレビドラマとして映像化され、多くの森村ファンが生まれました。森村作品の一番の魅力は、ストーリー展開に加え登場人物たちの、人間として心の根底にある人情味溢れる描写と言えます。

今回はそんな森村作品の魅力や作品のジャンル・受賞歴・代表作などをあらすじと共に解説し、またおすすめの作品を20選ご紹介していきます。

森村誠一氏は、埼玉県熊谷市に生まれ、幼い頃から本好きで本の虫の少年時代を過ごし、初めて作家になりたいと思ったのは12歳の時だったそうです。大学卒業後はホテルマンとなり、そのときの経験がホテルを舞台にした多くのミステリーに反映されています。

ホテルマンとして勤務しながらエッセイなどを書いていましたが、小説家になる夢が捨てがたく、1969年に執筆した「高層の死角」が江戸川乱歩賞を受賞したのをきっかけに作家活動に入りました。その翌年の「新幹線殺人事件」が60万部のヒット作品となりとなり、1973年の「腐蝕の構造」で日本推理作家協会賞を受賞し、本格的な推理作家となっていきました。

森村氏は推理作家としてよく知られていますが、その他にも中・短編集や時代・歴史小説・随筆・ビジネス関連などの広いジャンルの優れた作品を手がけています。ここではその特徴などを解説していきます。

これまでに150を超える長編推理作品が執筆されています。その中でもホテルを舞台にしたミステリーや密室殺人事件・アリバイ崩しなどいろいろな分野の興味深い推理小説が含まれています。また「人間の証明」などヒューマニズム溢れる推理小説も多く、これまでたくさんの出版社から文庫本として出版された作品は重複分も含めて1000作品を超えています。

シリーズ作品としては、「棟居刑事シリーズ」の37作品や「牛尾刑事・事件簿シリーズ」などがあり、多くの作品が映画やテレビドラマ化されました。また「人間の証明」や「野性の証明 」・「青春の証明」など「証明三部作」に加えて「悪魔の飽食シリーズ」や「異型シリーズ」・「社奴シリーズ」などがあり、作家としての多才な面がうかがえます。

中・短編集としてこれまでに100近い作品を執筆されており、これらの作品の中から秀作を集め「傑作短編集」として1巻から5巻まで刊行されています。

1巻には登山ルートに仕組まれた巧妙なトリックとアリバイ崩しの表題作「裂けた風雪」など5編。2巻には裏口入学の甘い誘惑にのった人妻が招く、一家崩壊の過程を描いた表題作「姦の毒」。3巻には、少年のあどけない微笑下に隠された残酷と非情を鮮烈に描いた表題作「魔少年」など、全5巻に興味深い短編作品が収録されています。

氏は推理小説の他にも、50近くの時代・歴史小説を手がけています。中でも「吉川英治文学賞」を受賞した「悪道」は、江戸・元禄の徳川吉宗の時代に江戸城を舞台とした大老や伊賀忍者・暗殺集団などが暗躍し人の業を問う、傑作時代小説です。

その他にも「元禄赤穂事件」ものや非道人別帳シリーズ・刺客請負人シリーズ・暗殺請負人シリーズ、伊達騒動を舞台とした虹の刺客シリーズなど、興味ある小説が目白押しです。

随筆・ビジネス関連としても50近くの著作が執筆されています。その中の1つ「サラリーマン悪徳セミナー」では、「多くのサラリーマンは会社に”居る”が”生きて”いないとし、それは制約に屈服して反逆精神をもたないからだ」とする著者のホテルマンとしての経験を元にした貴重なアドバイスが盛り込まれています。

その他にも、小説の書き方を手ほどきした「小説道場」や「森村誠一の写真俳句のすすめ 」・老いを見つめる「遠い昨日、近い昔」など著者ならではの魅力ある作品が揃っています。

これまでの受賞作品としては、ホテルマンとしての経験を生かして執筆された密室殺人事件を描いた「高層の死角」が1969年に「江戸川乱歩賞」を受賞し、小説家としての始動の大きなキッカケとなりました。

さらに「腐蝕の構造」が日本推理作家協会賞に輝き、「空洞の怨恨」で小説現代ゴールデン読者賞・「人間の証明」が角川小説賞・「小説道場」が加藤郁乎賞・「悪道」が吉川英治文学賞を受賞し、小説家としての地位が確立されていきました。

多くの受賞歴を持つ森村誠一作品ですが、その中でも代表作としてよく知られ評価が高いのは「人間の証明」と言われています。これまで、数多く映画化やテレビドラマ化され韓国でもリメークされるほどの人気作品です。その他にも、代表作として映像化された作品は枚挙にいとまがないほどです。

これまでに映画化やテレビドラマ化された森村作品は数え切れないほどたくありますが、その中から話題となった人気作品を取り上げて、あらすじと共にご紹介していきます。

アメリカから日本にやってきた黒人青年が都内ホテルのエレベータ―内で刺殺死体となって発見されます。麹町署の棟居刑事（松田優作）が捜査を担当し、手掛かりが全くない中で犯人探しは難航しますが、あるセレブ評論家八杉恭子（岡田 茉莉子）が捜査線上に浮かび上がります。物的証拠がない中、刑事は黒人青年の残した思い出の品を八杉に見せながら、その人間性に訴え掛けますが…

770万部を越えるベストセラーとなり、数多く映像化もされ、黒人青年を演じたジョー中山が唄ったテーマ曲は当時大ヒットとなりました。また捜査を担当した棟居刑事は後に「棟居刑事シリーズ」の作品となり、数々の事件を手がけました。

都心の超高層ホテルでは、2代目社長・猪原杏平（田村正和）がオープンセレモニー控えの準備をしていました。ホテルはアメリカの会社から資金援助を受けて経営される予定でしたが、その会社から派遣された総支配人は資金援助の約束を実施しようとしません。怒った杏平は口論の末、はずみで総支配人を最上階の部屋の窓から突き落としてしまいます。

社長をかばう秘書課長や仕組まれた密室・続いて起こる殺人など、事件は混迷していきますが、担当刑事がどのように事件を解決する点が見どころとなっています。

自衛隊に極秘に創設された特殊工作隊の味沢（高倉健）は、非常に優秀な隊員でした。ある時、東北の山中で単独訓練中、極限の疲労で行き倒れてしまいます。丁度同じ頃、近くの村で大量殺人事件が発生し、唯一生き残った少女・頼子（薬師丸ひろ子）は、事件のショックから記憶を失い、ただ「青い服を着た男が」と証言するのみでした。そして味沢は第一容疑者となってしまいます。

地方都市を舞台とした極道の暗躍や国家規模の陰謀にまで発展する自衛隊の動きなど、最後まで飽きさせないストーリー展開です。また薬師丸ひろ子の初々しさが評判となりました。

12世紀のモンゴルでは、氏族長の息子に生まれたテムジン（反町隆史）が花嫁探しの旅に出て、美しいポルテ（菊川怜）と出会い婚約します。そんな時に父が殺害されたとの報を受け帰郷してしまいます。7年の月日が経った後に2人は結婚しますが、敵対する部族に彼女を略奪されてしまいます...

森村作品「地果て海尽きるまで 小説チンギス汗」をベースにして、モンゴルの英雄チンギス・ハーンの生い立ちからモンゴル統一までの波乱に満ちた過酷な人生を描いた傑作映画です。

森村作品「牛尾刑事・事件簿シリーズ」は、「終着駅シリーズ」として1990年から2021年までテレビ朝日系で放送された全37話の刑事ドラマの長寿番組です。主人公の牛尾刑事は、第1作から第4作までは露口茂、第5作から片岡鶴太郎が演じました。

牛尾刑事は、作者がホテルマンとして勤務していた時に知り合った実在の元刑事がモデルになっています。ドラマでは通称は「モーさん」と呼ばれ、階級は巡査部長から警部補となっており、事件解決のため、全国を飛び回る場合もあり飄々とした刑事役が人気のドラマでした。

昭和の時代、東京のホテルでオーナー社長の刺殺体で発見されます。死亡推定時刻は午前1時～2時頃とされ、部屋と寝室の両方のドアが施錠されている「二重の密室」状態であったとされる鑑識の報告から、刑事たちは内部の人間の犯行として捜査を進めます。苦労して密室のトリックを暴き、逮捕状を請求した刑事（藤岡弘）たちの前に、新たなアリバイの壁が立ちふさがります。

「江戸川乱歩賞」を受賞した作者の同名小説がベースになっており、ホテル業界の内部事情に詳しい作者ならではのストーリー展開となっており、使われている業界用語が事件の鍵となっている点が特徴です。

東京のホテルで女性の絞殺体が発見され、第一発見者は、隣室に宿泊していた作家(大杉漣)でした。原稿執筆のため缶詰にされた2日目の夜に事件が起こり、現場から逃げる男を目撃したと証言しました。しかし被害者の部屋からは、この作家の不自然なほどの指紋が残っていました。担当刑事の那須(加藤剛)は、この作家を第一容疑者と考えていましたが、その後、思わぬ展開が...

おなじみの警視庁捜査一課・通称「落としの那須刑事」」が登場するミステリードラマです。原作の本の帯に「驚愕のラスト！！」と書いてあり、最後に本当に「驚愕のラスト」が待っています。「こんないい意味でのトリックがあったのか」などの読者や視聴者の声も多いです。

森村作品はミステリーに止まらず、歴史や時代物を扱った作品、ドキュメンタリーや随筆などの評価が高く、人気のある作品が多いです。ここではそんな人気の作品を集めてご紹介します。

元禄14年の春、江戸城松の廊下で播州赤穂城主「浅野内匠頭」が、高家筆頭「吉良上野介」に放った備前長船の一振りにより、「忠臣蔵」の幕が開きます。この一件で浅野は切腹となり、吉良はお咎めなしとなりました。それを不服とする国家老・大石良雄（内蔵助）をはじめとする47士が、紆余曲折の末に一年後の冬に吉良邸への討ち入り、主君の無念を晴らします。

森村「忠臣蔵」は膨大な資料に基づいて、大石と吉良の戦いを中心に最後まで一気に読ませる、ストーリーテラーとしての魅力溢れる作品です。また当時の武士達や町人達の内面までも描こうとする作者の忠臣蔵に対する思いが伝わってきます。筆者はこの後、吉良の側から見た「吉良忠臣蔵」も執筆しています。

第二次世界大戦中の日本軍による人体実験を告発する内容の著作で、戦後タブー視されてきた細菌戦七三一部隊の実像に迫る力作です。関東軍に捕らえた捕虜は、医療研究班に割り振られ、その研究目的に応じて生体実験の材料となっていきました。

作者はその後、「続・悪魔の飽食」を刊行し、第二次世界大戦における日本軍細菌戦部隊の行為が広く世に知らされ、若者から年寄りまで当時の世代の間に広く波紋が広がっていきました。

時は元禄時代、大老・柳沢吉保は急死した徳川5代将軍綱吉の死を隠し、身代わり「影」をたてて、これを操って天下を取ろうとしました。そして彼の野望を見抜き吉保に追われるようになる伊賀者との迫力のある攻防の物語です。その他にも天才女医を守るエピソードや奥の細道へ逃亡の旅など興味あるストーリーが繰り広げられます。　

強大な敵の喉元に迫る不屈の忍者の息もつかせぬ死闘の物語で、「吉川英治文学賞」に輝く、作者の時代小説の最高峰と言われる作品です。

巨大な企業集団に君臨するグループ会長は、全身を癌に犯され死の床にありました。そんなある日、令嬢姉妹が搭乗していた小型飛行機が、北アルプス・後立山で消息を絶ってしまいます。姉妹のそれぞれの婚約者は事故を公にせず、別々に捜索隊をたて、秘密裏に現場へ向います。婚約者たちは会長が瀕死の状態であり、その財産を独占できる絶好の機会と捉えたのです。

しかし悪天候により救援隊は「幻の谷」に閉じ込められてしまい、そして恐怖の連続殺人が勃発します。過酷な自然を舞台に、さまざまな人間の野心と欲望がもつれ合う傑作山岳ミステリーに仕上がっています。

森村作品のご紹介はいかがでしたか？作者は推理小説だけでなくさまざまな分野の傑作を執筆していますね。どの本もあらすじを読むと、実際に本編を読んでみたくなる作品ばかりです。ぜひ気に入った本を手に取って森村ワールドの魅力に浸りましょう。