菊池寛の小説おすすめ10選｜代表作は？作品の特徴や短編も紹介

菊池寛（きくちかん）は、明治から昭和にかけての文壇を積極的に盛り上げた人物です。小説家としても実業家としても大活躍しました。夏目漱石や芥川龍之介などとも懇意な間柄で、その時代の作家にとっては頼れるリーダー的存在でした。

自ら作品を執筆する傍ら、市議会議員や映画系の会社社長になるなど、マルチな才能が溢れています。現在の有名な文学賞である直木賞や芥川賞を設立したのも菊池寛です。だれが読んでもテーマがわかりやすいような作風も特徴的です。

この記事では、菊池寛はどんな人だったのか、その魅力や作品の特徴・代表作・おすすめ有名作品・他の作家との交友関係などを詳しくご紹介します。ぜひ参考にして菊池寛の偉業と作品を知ってください。

菊池寛は作家・実業家の両方で活躍しました。ここでは、菊池寛の行なった作家業や功績などを中心に、代表的な特徴をご紹介していきます。これも菊池寛だったのか、と驚くはずです。

学生時代から戯曲や小説を書いていた菊池寛は、就職して記者になってからも貧しい生活を強いられていました。資産家の娘と結婚をした後は執筆に割ける時間が増え、精力的に作品を世に発表します。作家として人気が出ると記者を辞めて執筆に専念し、新聞掲載された作品などが高評価を得ます。

作家として有名になった菊池寛は、後出の作家のためにさまざまな文壇改革を行ないます。元来が面倒見のいい性格だったのもあり、作家が才能を出しやすい居場所づくりに励みます。

まず、作家がもっと活躍しやすい場をつくるため、雑誌『文藝春秋』を創刊します。若手の作家の作品を載せ、当時では破格の値段で販売したところ、一躍人気雑誌になります。すると、菊池寛は文藝春秋社を設立し、文藝春秋を総合雑誌にしました。これが1926年の出来事で、編集長をしながら作品の執筆もしていました。

1926年、菊池寛は劇作家協会と小説家協会を合併させ、日本文芸家協会として統合させます。文芸作家の地位の向上・著作権擁護・収入や生活の保護を目的としたしっかりとした協会は、現在でも存在しています。菊池寛は自らが作家でありながら、日本の文壇をよりいい場所にしようと努力しました。

日本文芸家協会の他にも、日本文学振興会を設立し、純文学を守る活動を行ないました。それによって生まれたのが芥川賞・直木賞です。新人賞として設立された芥川賞・直木賞は才能ある新人作家の登竜門となります。ちなみに、菊池寛は、文化分野で功績を上げた人に与える菊池寛賞も作っています。

文学者・経営者として才能に溢れた菊池寛は、競馬・麻雀などギャンブル好きとしても知られ、それらにまつわる多くの名言を残しています。ここでは、そのいくつかを紹介します。

ギャンブルにまつわる名言

• ギャンブルは、絶対使っちゃいけない金に手を付けてからが本当の勝負だ。
• 同期開催の各競馬の成績を丹念に調べよ。そのお蔭で大穴を一つ二つは取れるものである。
• 競馬を、偶然だけが支配する類いの賭博と同一視するような人は、競馬場に来る資格はない。

小説にまつわる名言

• 二十五歳未満の者、小説を書くべからず
• 生活第一、芸術第二
• 読まれない文芸などは、純文学だろうが何だろうが、結局飛べない飛行機と同じものである。

人生観にまつわる名言

• 不幸のほとんどは、金でかたづけられる。
• 来世に希望をつなぐ信仰などよりも、現世をよく生きたということが、安心の種になるのではないかと思う。
• 約束は必ず守りたい。人間が約束を守らなくなると社会生活はできなくなるからだ。

菊池寛の作品を読み始めたい方に、菊池寛の作品の作風や特徴などをご紹介します。大きな特徴としては、テーマがわかりやすく読みやすい点が挙げられます。順番にご説明していきます。

菊池寛はテーマ主義ともいわれる手法を使って作品を書いていました。テーマ主義とは、全体のテーマを最初に決め、テーマから逸れずにストーリーを展開・収束させていく書き方です。菊池寛は頭のいい人だったので、作品も読む人の理解のしやすさを大事にしています。テーマから逸脱せずとも、いろいろな工夫で面白さを引き出しました。

歴史短編にも人気が集まります。菊池寛の歴史短編の特徴は、歴史の流れにテーマを置くのではなく、飽くまでも人間らしさにテーマを置く点です。武士の気高さではなく、武士でも持っている命への欲望などを描いています。菊池寛の文体はシンプルで読みやすいので、歴史小説が苦手な方にもおすすめです。

歴史小説を書いていながら、恋愛や結婚生活のどろどろした作品も面白く書けるのが菊池寛の特徴です。メロドラマ長編では、ありそうだと思うベタな設定の中で新しさを感じさせるようなハラハラ感をふんだんに取り入れています。読者の楽しみ方をよく理解している菊池寛ならではの作風です。

菊池寛の戯曲や小説は何度も映画化・舞台化されています。人間模様の面白さや関係性の独特さが高い人気の秘密となっていて、さらに、演じる役者によってもまた違う味わいを見せてくれるのが特徴です。菊池寛の書く「まっとうそうで実は人間臭さがある」登場人物にはだれもが引き付けられます。

ここでは、菊池寛の小説のどれを読んだらいいか迷っている方に向け、上手な選び方のコツをご紹介します。菊池寛の小説を選ぶキーポイントは「短編」「映画化」の2つがあります。

菊池寛の短編は、短いながらも完成度が高く、ややマニアックな隠れた名作品が多いです。笑いあり涙ありの短編は短時間で菊池寛を楽しみたい方にぴったりです。代表的な作品をご紹介します。

「菊池寛（ちくま日本文学27」は、菊池寛の短編集です。代表作の戯曲『父帰る』も収録されており、菊池寛の作風をよく知れる1冊になります。小説や戯曲の他、エッセイも収録されています。菊池寛はエッセイでは独特の持論を書いているため、意外な一面が垣間見られて面白いです。

とても短く、端的な菊池寛のメッセージが読めるのが『小説家たらんとする青年に与う』です。小説家になろうとする若者はもちろん、小説家を目指さない若者にも人生の教訓を得られるような内容になっています。5分から10分程度で読了できるので、菊池寛の作品で迷っている方は一度目を通してみるのもベターです。

映画化やドラマ化された菊池寛の作品なら、読書が得意でない方も楽しみやすいです。特に人気の高い2つの作品について詳しくご紹介をしていきます。どちらも大好評で夢中になってしまう作品です。

昭和初期の一見上品な三姉妹を軸にして書かれた作品です。三姉妹の中の次女・新子は、長女や三女の呑気な暮らしぶりを支えるため家庭教師を始めますが、勤め先の男性にちょっかいを出されその妻から壮絶な嫌がらせを受けます。

さらに三女が新子の恋人に手を出すなど、女性のどろどろ劇といえる展開になります。ザ・昼ドラの世界です。

『真珠夫人』は何度となくドラマ化・映画化されている大人気の作品です。主人公の唐沢瑠璃子の悪女さと慈愛性の矛盾が入り乱れ、ストーリーに引き込まれてしまいます。それを支える設定の構成がまた秀逸で、メロドラマとしても小説としても最高です。連載当時から爆発的な人気を誇った作品です。

菊池寛はだれかの世話をしたりだれかを押し上げたりする才能がありました。菊池寛と関わりの深かった有名作家との関係性やエピソードをご紹介します。背景を知ると、より作品が面白く感じます。

菊池寛・久米正雄・芥川龍之介は皆、夏目漱石に弟子入りしていました。その中で久米は学生時代から俳人として名を上げており、芥川龍之介は漱石からのお墨付きをもらって華々しい新人作家となりましたが、菊池寛は評価を受けられず記者を続けていました。

しかし、漱石は決して菊池寛を見捨てず新聞掲載などの話を振ったため世に才能が広まりました。

芥川龍之介と菊池寛は同じ時代を一緒に歩んだ同士です。もちろん、早々とスター街道にのった芥川龍之介に対して嫉妬を抱えた時期もあるといわれていますが、芥川龍之介が亡くなったとき、菊池寛は相当深い悲しみに襲われます。芥川賞を創設したのは、亡き親友の名を残し続けたい一心からだったとも言われています。

後世の作家を手厚く育てたのも、菊池寛の功績のひとつです。作家は才能がある分、やはりどこかで堕落したり変人であったりする面がありますが、それを擁護したのが菊池寛です。菊池寛のリアリストぶりを暴露する小林秀雄に対しても寛容で、横光利一にいたっては生涯ずっと世話をしました。

『サザエさん』で有名な長谷川町子の姉・長谷川鞠子も菊池寛に弟子入りしています。父の死後、家計を支えるために挿絵を描いていた鞠子の絵を評価し、雑誌『夫人倶楽部』の小説ページの挿絵を描かせています。その後、町子の妹の長谷川洋子も文芸春秋社に入社させました。菊池寛は作家を受けいれる懐が大きい方です。

青空文庫は、著作権がなくなった作品や著者の承諾を得た作品を電子書籍として手軽に無料で読めるサービスです。菊池寛の作品も数多く載っているので、気軽に読んでみたい方にとてもおすすめのサービスです。

紙媒体で発表されている作品はもちろん、されていない名作もあり、ちょっとしたメモのような短い作品や日記なども読めます。菊池寛の作品をくまなく堪能したい方は青空文庫もチェックしてください。

菊池寛について、作品の魅力や選び方、おすすめ作品などをわかりやすくご紹介しました。菊池寛は大胆なテーマを読みやすく書く作家です。ぜひ記事を参考に面白い菊池寛の作品を楽しんでください。

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