幸田文の小説おすすめ8選|特徴・魅力は?おすすめ作品もご紹介

幸田文は文豪・幸田露伴の娘であり、小説家・エッセイストです。デビューは露伴没後の43歳で、遅咲きの作家です。その分、さまざまな経験をもとに精力的に多くの作品を出しています。父・幸田露伴や、娘・青木玉との関係もあわせて、おすすめの小説をご紹介します。

2023/08/10 更新

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店は一人の女に不名誉な疑いをかけたことに責任を取るまいとし、署の男は自分の敗北を明らかにしたくないために、そして小娘一人だからと見縊ったゆえのごまかしをしようとしている、その憎らしさ忌々しさが、げんにはこらえらえきれなかった。と云うより、しゃっと切り札を投げて彼等に止めを刺してやりたい誘惑がこらえきれなかった。

出典: 『おとうと』幸田文(新潮文庫)

「とにかく何の商売でも時代後れになっちゃ立ち行かない。古いまんまの芸者ではどこか片意地だし、そうかと云って、どこをどうすれば新しい芸者ができるんだかわからないし、私たち古株も今日試験に来た妓も、実を云えばくろうと・しろうとの堺も知らなければ、職業と遊びとの堺もわからないんだわ。みんなめちゃくちゃで中途半端なんだわ。」

出典: 『流れる』幸田文(新潮文庫)

ひょっと梨花は自分の結婚式の写真を思いだして唇を曲げた。その写真はそんなふうに唇を曲げて島田で澄ましているのだった。口、口、口が曲がっている!口の曲がっている島田だ。たべる口、しゃべる口の曲がっている島田だったとは。

出典: 『流れる』幸田文(新潮文庫)

「みそっかす」は著者幸田文が、子供時代のことを濃やかな筆致で綴った作品です。厳格な父と祖母、知的で優しかった姉、ユーモアな弟、継母、級友との思い出が書かれています。 なかでも印象深いのは、継母との家族関係です。父と継母の不仲に幼い姉弟が心を痛める場面は切なさで胸が締め付けられます。部屋の窓から一人寂しく外を見る継母の姿を見て、継母の苦しみをも思いやる子供心にぐっときます。 おてんば娘だった著者ですが、人の痛みがわかる優しさを持った少女であったことが、色々なエピソードでよくわかります。面白さと悲しさがぎゅっと詰まった回想記です。

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儚くあまりにも美しい「おとうと」とはかなり趣を異にする作品。だが機知と文章のうまさに ぐいぐいと引き込まれてしまう。読み出したらやめられない。これほどの実力を持った作家 はなかなかいないのではなかろうか。ただ読み進めるとその機知が小賢しさに変わってやや 鼻持ちならないという感じも漂う。いやみになるぎりぎりで小説が終わっているのはなんとも 目出度い。 我々の知らない芸妓の世界、日本の古いひとつの風景が見事に描かれている。

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じっくりと読みたい、幸田家の話。そして幸田文の優しさ。 日本語が美しいので読みやすいです。

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大正時代に生きた人の、着物に対する思い入れ、執着心を軸に、家族の愛憎が書かれてあった。切り口が良く、着物が好きかどうかを抜きにしても大変面白いと思うが、着物を着る人にとっては、着物生活がリアルだった時代のことがよく分かって、その点でもとても面白い本だった。

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結核が「不治の病」だった時代があった。まだ特効薬がなく、空気の良いところでひたすら安静にして、栄養をしっかりとって人間の治癒力に任せるしかない時代があった。生きるために病と闘う。その闘う人々や、それを助け、時に看取る医師や看護師たちの無力感や悲しみや苦しみの物語がこの中にある。 そして、もうひとつ素晴らしいのは幸田さんの季節の描写。読んでいると、その場にいて同じ季節を味わっているように感じる。 「雨あがりの、明るい朝だった。」から始まり、「寒風が霊柩車のあとを追い、松の梢に音が残った。」で終わるこの物語は、死という重いテーマを読んでいる自分に、人の営みもまた自然の一部なのだ、といったことを教えてくれる気がした。

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明治生まれの幸田文さんの、日々日常への向き合い方、物の始末の仕方、父露伴さんとの親子の関わり方、現代に失われつつある日本人の慎ましさ、心の豊かさに再び触れる事が出来ました。言葉の豊かさにも引き込まれ、大切な一冊になりました。

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姿かたちの老いと引き換えに、感性は波立たずに深く、また生き生きと心ばえてくる。そんな老いの喜びが しみじみと名文で伝わってくる大変素晴らしい本です。 すきっと愛らしい著者のような心じたくを見習いたいものです。

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